不動産相続で損しないための基礎知識
1 はじめに
不動産の相続は、金銭的価値が大きいだけでなく、家族間の感情や人間関係にも深く関わるため、慎重な対応が求められます。相続財産の中でも不動産は分割が難しく、評価や管理にも専門的な知識が必要です。さらに、相続税や登記手続きなど、法律的な対応を誤ると思わぬ損を被る可能性もあります。
そこで本稿では、不動産相続において損をしないために押さえておきたい基礎知識を、実務的な視点からわかりやすく解説します。
2 不動産相続の基本とは
はじめに不動産相続に関する基本的な事項について解説します。
2-1 相続の流れについて
相続手続きで最初にすべきことは、相続人の確定です。民法では、配偶者は常に相続人となり、その他の相続人は子、直系尊属(父母など)、兄弟姉妹の順で定められています。法定相続分(民法で定められた相続分)に従って分割するのが原則ですが、遺言書がある場合はその内容が優先されます。
遺言書の有無は、円滑に相続手続きができるかに大きく影響します。遺言書がない場合、相続人全員による遺産分割協議が必要となります。相続人間で意見の対立が生じることも多々あり、この場合は手続きが長期化する恐れがあります。
2-2 「不動産」相続の特殊性
不動産が相続財産に含まれる場合、現金や預貯金とは異なる注意点があります。
まず、不動産は物理的に分割することが難しく、相続人間で公平に分配することが困難になりがちです。また、評価額と実際の売却価格が乖離することも多く、この点が相続税の計算や遺産分割に影響を及ぼします。
3 よくある損失・トラブル事例
不動産相続において、知識不足や準備不足が原因で損失やトラブルが生じるケースは少なくありません。以下では代表的な事例を紹介します。
3-1 相続税の納税資金が足りない
不動産には現金化がしにくいという事情があります。そのため、相続税の納付期限までに現金を用意できず、やむなく不動産を売却するケースがあります。しかも、急いで売却すると市場価格より安く手放すことになりかねません。
3-2 共有名義による管理・売却の困難
複数の相続人が共有名義で不動産を相続すると、売却や修繕などの意思決定に全員の同意が必要となります。相続人間の意見が合わないと、管理が滞り、資産価値が下がることもあります。
3-3 評価額の誤認による不公平感
固定資産税評価額(固定資産税や都市計画税などを計算するための基準となる価格)や路線価(国税庁が毎年発表する土地の相続税や贈与税を計算するための基準となる価格)を基にした不動産評価が、実際の市場価格と大きく異なる場合、相続人間で「不公平だ」と感じることがあります。これが相続人間の感情的な対立につながることもあります。
3-4 相続登記の放置による権利関係の混乱
相続登記を怠ると、次世代への相続時に権利関係が複雑化し、適切に登記するために多大な時間と費用がかかることがあります。2024年からは相続登記が義務化され、相続発生時から3年以内に相続登記をしなければならなくなりました。放置すると過料の対象にもなります。
3-5 感情的な対立による手続きの停滞
相続人が複数いる場合、「親の家を誰が継ぐか」「思い入れのある土地を売るか残すか」などの問題について、相続人間で協議する必要が生じます。相続人間で意見が食い違う場合には、感情的な対立を生みやすく、手続きが進まない原因になります。
4 損を防ぐための実務的なポイント
不動産相続で損をしないためには、以下のような実務的なポイントを押さえておくことが重要です。
4-1 不動産の評価方法と注意点
相続税の計算には「路線価」や「固定資産税評価額」が用いられますが、これらは実勢価格(土地や建物などの不動産が実際に市場で売買された価格。時価)とは異なります。そのため、売却を前提とする場合は、不動産会社による査定も併用し、現実的な価値を把握することが大切です。
4-2 相続税対策
故人が使っていた土地(自宅や事業用など)を相続する場合に、土地の評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」があります。この制度を活用すれば、一定の条件下で土地の評価額を最大80%減額できます。
具体的には、被相続人の自宅を配偶者や同居親族が相続する場合などが、特例を適用できる場合に該当します。また、配偶者には「配偶者控除(配偶者の税額軽減)」があり、1億6000万円または法定相続分までの相続には相続税がかかりません。
4-3 遺言書の作成と公正証書遺言の推奨
遺言書があると、相続人間の争いを防ぎ、手続きを円滑に進めることが可能です。特に不動産のような分割が難しい財産については、具体的な指示を記した遺言書が有効です。自筆証書遺言よりも、公証人が関与する公正証書遺言の方が、①偽造・改ざんの心配がなく、②家庭裁判所の検認が不要といった点で優れています。可能な限り、公正証書遺言を用いるのが望ましいでしょう。
4-4 共有回避のための遺産分割協議の工夫
不動産を共有名義にすることには、先にも触れたとおり、①売却や管理に全員の同意が必要、②意見の対立でトラブルになりやすい、③将来の相続で権利関係が複雑化するといった問題があります。不動産を共有名義で相続することはできる限り回避し、単独相続と代償分割(相続人のうち誰かが特定の財産を単独で取得し、その代わりに他の相続人に金銭などの代償を支払う方法)を組み合わせるなど、実務的に工夫することが必要です。専門家の助言を得ながら、相続人間で合意形成できるようにしましょう。
4-5 相続登記の義務化とその影響
先ほども述べたとおり、2024年4月から、相続登記が義務化されました。相続発生から3年以内に登記を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があります。この制度の導入により、登記を放置することによって権利関係が混乱することを防ぐ効果が期待されています。
5 事前準備の重要性
不動産相続で損をしないためには、相続が発生する前の準備が何よりも重要です。親世代が元気なうちに、家族で財産の内容や希望を話し合うことが、トラブル回避の第一歩となります。
5-1 財産の内容と希望の共有
親がどの不動産を誰に相続させたいのか、売却を希望しているのかなど、あらかじめ本人の意思を確認しておくことが大切です。意思が確認できたら、それを遺言という形で残してもらうようにしましょう。
5-2 相続人間の合意形成
兄弟姉妹間で相続開始前に話し合いをしておくことで、相続発生後の混乱を防ぐことができます。感情的な対立を避けるためにも、冷静な対話が求められます。
5-3 家族信託や生前贈与の活用
高齢の親が認知症になる前に、財産管理を信頼できる家族に託す「家族信託」や、相続税対策としての「生前贈与」をしておくことも有効な手段です。
ただし、家族信託や生前贈与は、相続税だけが問題となるわけではなく、贈与税や所得税にも関わる可能性があるため、慎重な対応が必要です。専門家の助言が不可欠といえます。
5-4 専門家への相談のすすめ
不動産相続について、司法書士や税理士、弁護士などの専門家に相談することで、法律・税務・手続きの面から適切な対応が可能になります。相続税だけでなく、贈与税や所得税にも関わる可能性があるため、慎重な対応が必要です。
6 まとめ
不動産相続は、単なる財産の引き継ぎではなく、家族の未来や人間関係にも深く関わる重要なライフイベントです。金額が大きく、分割が難しく、税務や登記などの専門的な手続きも伴うため、知識不足や準備不足が「損」につながる可能性があります。
本稿で解説してきた知識は、相続が「争族」にならないための土台となります。特に不動産は、感情や思い出が絡みやすい財産で、相続人同士の争いの種になりやすいものです。だからこそ、冷静に、かつ誠実に向き合う姿勢が求められます。
相続の問題は「知らなかった」では済まされません。知識を持つことは、経済的な意味での「損」を防ぐだけでなく、大切な家族との信頼関係を守ることにもつながります。早いうちに基礎的な知識を身につけておくことが、経済的にも人間関係の上でも重要といえます。
まねきや不動産は、不動産の専門家と司法書士からなる少数精鋭の専門チームで、不動産の売買・賃貸・管理から、相続に関わる様々なお手続きまでをワンストップで支援しています。
不動産相続で損をしないためにどうすればよいかという問題についても、専門チームの担当者がご相談に乗ります。どうぞお気軽にお問い合わせください。
