相続した実家をどうするか?
親の死後、実家を相続することは、多くの人にとって人生の節目となる出来事です。実家には家族の思い出が詰まっており、単なる不動産以上の意味を持つことも少なくありません。
しかし、現実には相続後の実家の扱いに悩む方が増えています。住む予定がない場合、空き家として放置すれば管理責任や税負担が生じ、売却や賃貸にもそれぞれ課題があります。
そこで本稿では、実家を相続した際に検討すべき選択肢と、それぞれの法的・実務的ポイントについて整理し、冷静に判断するためにどのような視点が必要かについて解説します。
1 実家を相続したときにまず確認すべきこと
実家を相続した場合、まず行うべきは、現状を把握することです。以下の点を確認することで、今後の方針を立てやすくなります。
1-1相続登記の有無
2024年4月から、不動産の相続登記が義務化されました。原則として相続から3年以内に登記を行わないと過料の対象となる可能性があります。登記を済ませていない場合は、早急に手続きを進める必要があります。
相続登記がされているかどうかについて、早い段階で確認しておきましょう。
1-2 所有形態の確認
実家が単独相続なのか、兄弟姉妹との共有なのかによって、その後の選択肢は大きく変わります。共有の場合は、売却や賃貸などの意思決定に他の相続人の同意が必要となります。相続後の所有形態がどうなっているかも、早期に確認が必要です。
1-3 建物の状態と空き家リスク
築年数が古く、老朽化が進んでいる場合は、修繕費用や安全面の問題が生じます。また、空き家として放置すると、自治体から「特定空き家」(周辺の生活環境に悪影響を及ぼす状態にあると自治体が判断した空き家)に指定され、固定資産税の優遇がなくなるほか、行政代執行(本来は私人が行うべき義務を、正当な理由によりその者が履行しない場合に、行政機関が代わりにその義務を実施する手続き)の対象となり、撤去されてしまうこともあり得ます。
実家の築年数や老朽化の程度についても、早めに現状を把握しておく必要があります。
2 実家の扱い方:主な選択肢とそれぞれのポイント
実家の扱い方には大きく分けて「住む」「賃貸に出す」「売却する」「保有する(空き家)」の4つの選択肢があります。以下では、それぞれのメリット・デメリット、法的留意点について解説します。
2-1 自分で住む
実家に自ら住む選択は、思い出を継承するという意味でも自然な流れです。住宅費の節約にもつながります。
メリットとしては、住居費の削減、親の思い出を守ることができるといった点が挙げられます。
一方、デメリットとしては、通勤・生活利便性が低下する場合があることや、修繕費用を負担しなければならなくなることが挙げられます。
また、実家に自分で住むことについては、法的に、名義変更(登記)、住宅ローンとの関係、住民票の移動などに留意する必要があります。
特に地方の実家の場合、生活圏との距離が課題になることがあります。ライフプランとの整合性を十分に検討する必要があります。
2-2 賃貸に出す
住む予定がない場合には、実家を賃貸に出すことで収益化を図ることが可能です。
メリットとしては、家賃収入を得られることや、空き家リスクを回避できることが挙げられます。これに対して、デメリットとしては、大家としての管理の負担が生じることや、借主とトラブルになるリスクがあり得ることが挙げられます。
法的には、賃貸契約を適切に締結すること、火災保険に加入すること、業者との間で管理委託契約を結ぶことに留意する必要があります。
賃貸に出す際は、建物の状態や立地によって収益性が大きく異なります。不動産業者に査定を依頼し、収支シミュレーションを行うことが望ましいでしょう。
2-3 売却する
実家を売却することで、現金化し、維持の負担を解消することができます。
メリットとしては、資産を流動化できること、管理責任を解消できることが挙げられます。一方、デメリットとしては、思い出の詰まった実家を売却することについて感情的な葛藤が生じうることや、売却価格が変動して思っていたほどの利益が得られない可能性があることが挙げられます。
法的には、譲渡所得税の申告を忘れないこと、共有者の同意が必要であること、売却前に境界確定や測量をしておくことなどに留意すべきです。
売却には時間を要する場合もあり、買い手が見つからないケースもあります。また、譲渡所得が発生する場合は税務申告が必要となるため、税理士への相談も検討しましょう。
2-4 空き家として保有する
将来的な活用を見据えて、当面は空き家として保有する選択もあります。
メリットとしては、柔軟な将来設計が可能であることが挙げられます。これに対し、デメリットとしては、固定資産税の負担が生じることや、管理の義務を負わなければならないこと、特定空き家に指定されるリスクがあることが挙げられます。
法的には、「空き家対策特別措置法」の対象になって自治体からの指導を受けないように、定期的に管理する必要性があることに留意しなければなりません。
空き家のまま放置すると、近隣住民とのトラブルや行政指導の対象となることがあります。最低限の管理体制を整えることが重要です。
3 感情面・家族関係の調整
実家には家族の記憶が詰まっているため、その扱いを巡っては感情的な対立が生じることもあります。
特に兄弟姉妹間で意見が分かれる場合には、それぞれの立場や思いを尊重しながら、冷静に話し合う姿勢が不可欠です。家族会議などの場を設け、各自の意向や希望を率直に共有することで、誤解や不満を未然に防ぐことができます。現実的な事情や法的な制約も踏まえたうえで、感情と合理性のバランスを取りながら合意形成を図ることが、後々のトラブルを避け、円満な相続につながります。
4 実家の扱いを決めるためのチェックポイント
実家を相続した後、その扱いをどうするかは一人ひとりの事情によって異なります。感情的な要素も絡むため、判断を急がず、以下のような観点から総合的に検討することが重要です。
4-1 自分のライフプランとの整合性
まずは、自分自身の今後の生活設計と照らし合わせて、実家をどう扱うかを考える必要があります。具体的には、以下の点を検討することが必要です。
ア 現在の居住地との距離や通勤・通学の利便性
イ 家族構成の変化(結婚、子育て、介護など)
ウ 将来的に住む可能性があるか(定年後の移住など)
エ 二拠点生活やリモートワークの活用余地
実家に住む選択をする場合、生活の質や利便性が損なわれないかを慎重に見極めることが大切です。
4-2 維持費・収益性の試算
実家を保有・活用する場合、どの程度の費用がかかるのか、また収益化できる可能性があるかを具体的に試算することが大切です。試算すべき項目は以下の通りです。
ア 固定資産税(住宅用地特例の有無)
イ 修繕費・リフォーム費用(築年数や劣化状況によって金額が異なる)
ウ 管理費(空き家管理サービスの利用など)
エ 賃貸に出す場合の家賃相場と空室リスク
オ 売却時の査定価格と譲渡所得税の見込み
収支バランスを把握することで、感情に流されず合理的な判断が可能になります。
4-3 法的手続きの見通し
実家の扱いには、さまざまな法的手続きが伴います。事前に必要な手続きや注意点を把握しておくと、スムーズに進めることができます。以下の点を確認しておきましょう。
ア 相続登記の完了状況(義務化の対象かどうか)
イ 所有権の状態(単独か共有か)
ウ 賃貸契約や売買契約に必要な書類
エ 境界確定や測量の必要性
オ 税務申告(譲渡所得税、相続税の申告漏れ)
専門家(司法書士・税理士・不動産業者)への相談を早めに検討することで、法的リスクを回避できます。
4-4 家族との合意形成
実家の扱いは、相続人間の感情や価値観の違いが表面化しやすい問題です。トラブルを防ぐためにも、丁寧な合意形成が不可欠です。
実家を兄弟姉妹と共有する場合には、意思決定には全員の同意が必要となる場合があります。
家族間の感情的な対立を避けるためには、冷静な話し合いの場を設けることが重要です。第三者(弁護士などの専門家)を交えて家族会議を行うことも有効です。
合意内容は、覚書や契約書など書面にして残すことで、後々の紛争を予防することができます。
「誰が住むか」「誰が管理するか」「売却するか」など、具体的な方針を共有し、納得感のある結論を目指しましょう。
5 おわりに
実家の相続は、単なる不動産の取得ではなく、感情・責任・将来設計が絡む複雑な問題です。放置すれば法的・経済的なリスクが生じる一方で、冷静に選択肢を検討すれば、資産として有効に活用することも可能です。
「住む」「貸す」「売る」「保有する」のどの選択肢にも一長一短があります。感情に流されすぎず、現実的な視点を持って判断することが、後悔のない選択につながります。
不安がある場合は、司法書士・税理士・不動産業者などの専門家に相談し、法的・実務的なサポートを受けることをおすすめします。
まねきや不動産は、相続に特化した不動産会社です。不動産の専門家と司法書士からなる少数精鋭の専門チームで、不動産の売買・賃貸・管理から、相続に関わる様々なお手続きまでをワンストップで支援しています。
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